ホテル・旅館のランニングコストの中で大きな割合を占めているものの一つが「人件費」です。宿泊業は対人サービスであり、従業員なくしては成り立たないサービスであるため、人件費がかかるのは必然です。宿泊者に満足してもらうためには、決め細やかな気遣いや、生身の人間ならではの接客スキルが不可欠だと考えるオーナーの方も少なくないのではないでしょうか。
日本の旅館で味わうことができる「おもてなし」こそ、宿泊業界が目指すべきサービスの高みだという意見もあります。しかし近年では、一部の富裕層や高級ホテル利用者を除き、一般の旅行者にとっては「宿泊費用の安さ」が重視される傾向にあります。つまり、消費者が宿泊施設を選ぶときの決め手として、「価格」が重要になってくるのです。
ニーズに合わせた人件費のカットが有効
宿泊施設の利用に関する調査は、インターネットやリサーチ会社、政府主導などさまざまな形で行われています。数あるデータを比較していくと浮かび上がるのは、若年層ではサービスの充実よりも価格を重視する傾向にあり、中高年層では価格より快適さやサービスの質の高さを選ぶということです。
例えば、ホテルのフロントスタッフに対する考え方をとっても、若年層では自動発券システムや無人フロントでも気にしないという声が多いのに対して、中高年層ではホテルスタッフによる対面式のチェックイン・アウトを好むという結果が出ています。ある程度以上の年齢の人では、宿泊施設では対面式のサービスに安心感や快適さを感じる人が多いようです。
この結果を踏まえて考えると、比較的若年層の利用者が多いホテル・旅館ではフロントスタッフ数を減らし、人件費のカットを行うことができるといえます。場合によっては自動チェックインシステムを導入し、思い切った機械化も可能となります。人件費のカットによって宿泊費用を下げることができるため、ニーズに合った、競争力のある価格設定が実現します。
ただし、高級感や老舗ならではの接客サービスが魅力の宿泊施設では、安易な人件費削減はリスクを伴います。安さを求める宿泊者が増加することで施設の高級感が低下し、常連客が離れていってしまう可能性があります。従業員数が減ることでサービスの質が低下する恐れもあり、リピート客が取り込めないというケースも考えられます。
人件費のカットを目指す場合は、宿泊者の年代や客層を把握し、ニーズに合わせた削減案を練ることが重要となります。