ほんの10年ほど前まで、旅行といえば非日常の空間や自然、贅沢な食事を楽しむことが大きな目的でした。旅館に泊まれば海や山の幸を使った和食を、ホテルに泊まればフランス料理のフルコースを、といった具合に、旅行先ならではの豪華な食事を楽しむのも旅の醍醐味とされていたのです。
しかし近年、旅行における食のあり方は大きく変わっています。例えば、食事は何回提供してほしいか、食事内容は和食か洋食か、それともビュッフェなのか、といったように、宿泊者が好きなように食事の設定を選べるところが増えているのです。
食事よりも宿泊費用を優先する人が増加
一昔前までは、「宿泊+朝夕の2食付き」というプランは定番であったといえます。ところが最近では宿泊+朝食のみ、または夕食のみといったプランを選ぶ人も少なくありません。それどころか、食事は一切いらないから安く泊まれる方が良い、という消費者も増えているのです。こういった「素泊まり」プランを利用する人は、旅先の飲食店などで好きなように食事をし、宿泊施設には寝に帰るだけというケースも珍しくありません。
特に20~30代の若年層では、旅行で重視することの第1位が「価格」というデータもあり、宿泊施設で提供される食事には関心が薄いことがわかります。また、食事内容がぎりぎりまでわからない宿泊施設での食事よりも、地元の人気店やグルメガイドブックなどに紹介されているお店で好きなものを食べたい、という人も多いようです。
宿泊者にとって魅力ある宿であるために
こうしたニーズがある一方で、宿泊施設がそれに柔軟に対応できているかどうかは疑問の残るところです。地方の旅館やホテルでは食事の質に力を入れているところが非常に多く、宿にいる時間を楽しんでもらうことを重要視しています。豪華な食事やコース料理で宿泊者を呼び込もうとしているわけですが、これでは「安く手軽に泊まりたい」と考える身軽な旅行者には魅力を感じてもらえません。
宿の周辺に飲食店や観光スポットが多く、個人旅行者が多いような土地では、「素泊まり」をメインにした宿が人気を得やすい傾向にあります。実際、日本屈指の観光地である京都では、京料理を楽しめる宿も人気がありますが「素泊まり」メインのゲストハウスも非常に多く存在しています。また、国内外から多くの観光客が訪れる沖縄でも、格安素泊まり宿がメジャーな存在です。
旅行者の求めるものが変化している今、宿泊施設も宿の「売り」について見直すことも必要なのではないでしょうか。豪華な食材にかけるコストを抑え、ネット環境やメディア戦略に費用を再配分することが、今後の業界での生き残りを左右するかもしれないのです。