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宿泊特化型ホテルの雄であるスーパーホテルの創業者・山本梁介氏と神戸大学の教授・金井壽宏氏の共著。社員とともに理念経営を徹底している会長のマネジメント手法をひもときながら、各章末に経営学的にいうとどういう意味があるのか、金井教授がアカデミックな見地から考察する。
本書は、宿泊特化型の雄といわれるスーパーホテルの創設者で、同ホテルの現会長である山本梁介氏に関する最新著書です。前著『稼働率89%、リピート率70% 顧客がキャンセル待ちするホテルで行われていること』と『1泊4980円のスーパーホテルがなぜ「顧客満足度」日本一になれたのか?』の内容を踏襲しつつ、さらに著者の内面にスポットを当てた一冊に仕上がっています。
本書は山本氏と、神戸大学大学院の経営学研究科教授・金井壽宏(かないとしひろ)氏による、対談形式となっています。山本氏によるソフトな語り口の自分史の振り返りと、金井氏による経営学的考察という対比構成になっているため、メリハリが効いて飽きずにさくさく読める構成です。
また、本書は堅苦しいビジネス書とは趣が異なります。そのため、ホテル業に携わる人におすすめなだけでなく、専門知識のない人や学生にも非常に読みやすい良書です。今最も勢いがあるビジネスホテルの一つだといえるスーパーホテル。その仕組みについて経営学的に学びたい人に、本書は最適の参考書です。
異なる2つの視点からスーパーホテルを分析
本書では、前著と同様に「スーパーホテルがいかにして成長してきたのか」という歴史が語られています。しかし前著と異なるのは、本書ではスーパーホテルの特色を4つのテーマに分けて紹介し、経営学的に分析しているという点です。
例えば、スーパーホテルの独自のシステムである「ノーキー・ノーチェックアウトシステム」というものがあります。同ホテルでは宿泊者は、チェックイン手続き時に発行される暗証番号を使って部屋の鍵を開けるのです。ルームキーを持ち歩く手間がないので紛失の心配がなく、フロントによる鍵の管理業務がカットできるというメリットがあります。スーパーホテルは業務合理化に伴い、ITを駆使したこの独自のシステムを導入し、大きな注目を集めました。
「ノーキー・ノーチェックアウトシステム」がどのように考案され、速やかな実用化に至ったのかは、山本氏の語り部分で深く理解することができます。その後、章末の金井氏による考察では、こういった合理的な発想の重要性を経営学的観点から紐解いていきます。ホテルオーナーの主観的視点と、アカデミックな視点、相反するかのような2つの視点からスーパーホテルの経営の仕組みを捉えることができるという点で、本書はすでに発行されている関連書とはまた違ったアプローチを行っているのです。
「生き金」という経営哲学がスーパーホテルを支える
山本氏が本書の中で使っている、「生き金」という言葉について紹介したいと思います。
大阪・船場の繊維商社の3代目として生まれた山本氏は、幼い頃から「生き金・死に金」という言葉を聞かされてきたと、本書の中で述べています。利益につながらない無駄使いにしか過ぎないお金は「死に金」であり、これは関西人が嫌うお金の使い方。逆に、投資効果があり自分にとって必要な出費なのであれば、これは「生き金」といって例え高額であろうとも身銭を切ってでも使う、というのが山本氏の慣れ親しんだ考え方なのだといいます。山本氏はこの「生き金・死に金」という考え方を基本哲学とし、スーパーホテルを経営していく上での重要な判断軸にしているのだそうです。
スーパーホテルを一つのビジネスのロールモデルとして捉えたいとき、本書は非常に役立つことと思います。山本氏の言葉で自分史が語られていることにより、本書を読むことで山本氏の思考を疑似体験できるからです。金井氏の専門的知見も、非常に参考になります。
そして、スーパーホテルの「仕組み経営」について興味がある人は、前著に引き続き本書もぜひ手に取って欲しいと思います。重複する内容もありますが、日々進化している同ホテルの取り組みに、目から鱗の思いで読み進めることができるはずだからです。
直感的に見えて実は経営学的に正解であるとされる、スーパーホテルの経営方法。情熱のこもったその仕組みに、読後は爽やかな感動を感じられることと思います。同ホテルや山本氏に興味のある人は、ぜひ一度本書を手に取ってみてはいかがでしょうか?