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知名度も資本力もノウハウもなかった「ホテルグリーンコア」が優れた企業に変身したのはなぜか。ホテル業界で大きな反響を呼んだ『和魂米才のホテルマネジメント』に続く、著者渾身のノンフィクションドキュメンタリー。
本書は、埼玉県に3店舗、茨城県に1店舗を抱えるローカルビジネスホテル「グリーンコア」に密着したドキュメントストーリーです。地方の小さなビジネスホテルであったグリーンコアが、いかにして高稼働率を実現し、人気ホテルになったのかという成功の軌跡を追うノンフィクションとなっています。
実在のホテルスタッフやオーナーが登場するだけでなく、当時の心情をリアルに描き出しているのが特徴であり魅力の一つです。ホテル従事者がさまざまなシーンにおいて、どのように考えどのように行動したのかを、追体験できるようになっているのです。
ホテルで働く全てのスタッフにとって参考になるだけでなく、中小企業における経営者のあり方を学ぶのにも役立つことと思います。
「小さな地方ホテルだからこそできること」を目指す
本書の舞台は、有名三ツ星ホテルでも高級リゾートホテルでも、新進気鋭のオーナーが居る注目のホテルでもありません。地元の人以外は、その名前さえ知らないことがほとんどかもしれません。
しかし、そのホテルで起きていることは、日本が世界から賞賛される「おもてなし精神」を体現することだと断言しても良いでしょう。
本書は、洗練されたホテルマンのスキルや巨額の利益を生み出す敏腕社長の経営スキルを学ぶビジネス本ではありません。あくまでも、地域に根ざした小規模ホテルの栄枯盛衰に過ぎないのです。
しかし、ホテル・グリーンコアで行われているさまざまな経営工夫やスタッフ教育の仕方は、場所や業界を問わず多くの接客シーンでお手本となるものです。
上質なドキュメンタリーである本書は、時に社内対立が起き、時に経営不振にも陥る、ホテルのリアルな姿を垣間見ることができる一冊となっています。群像劇のように多くの登場人物が入れ替わり登場し、それぞれの心情も細やかに書き出されているため、一つの物語としても非常に面白く読み進めることができます。
そして読後には、「このホテルに泊まってみたい」と思わせるのが本書の力だといえます。
グリーンコアが実践している接客術の多くは、大手ホテルでは実践が難しいものも少なくありません。客数が少ないからこそきめ細やかな接客ができるというのは、一つの真実かもしれません。
しかし、ホテルの生産性を示す稼働率を上昇させるためには、グリーンコアが現場で吸収してきた独自のスキルが有効だというのも事実なのです。
人を動かす「リーダー」に役立つ一冊
企業経営に携わる人だけでなく、プロジェクトやチームのリーダーである人、ビジネスシーン以外でも周囲の人を動かす必要性のある人にとって、本書は「人を動かす術」を学ぶのにおすすめの良書だといえます。
本書では、社長と従業員、宿泊者と接遇者という、相対する二つの立場がよく登場します。その中で、それぞれの立場から相手を動かすにはどうしたらいいか、というヒントが示されているのです。
社長は従業員を教育するにあたり、やる気を起こさせ愛社精神を育てる必要があります。従業員は自分なりの働き方や信念を持っており、これを阻害される職場であった場合、離職という武器で社長と対立することになります。
多くの仕事場では人材育成と離職という問題が起きますが、その解決策としてグリーンコアを一つのロールモデルとして参考にするのもおすすめです。
また、顧客は接客者に対して自分が満足できるためのサービスを求め、接客者は会社のルールに則ったサービスで納得してもらおうとします。クレーム対応や、客を満足させるサービスとは何かという点で、グリーンコアを一つの例として捉えることも有効です。
もちろん、本書に書かれていることやグリーンコアスタッフの取った行動は、各シーンにおける最適な回答とは限りません。シーンやTPOによってはベストな解決策が他にあったかもしれませんし、ホテルや旅館によっては「これはNG」と思うところもあるかもしれないからです。
けれども、グリーンコアは自社なりのやり方で成功を収めていますし、多くの利用者を満足させている実績があります。
地方の小さなホテルが巻き起こす改革の効果を、本書を通じて体験してみてはいかがでしょう?タブーを打ち破っていくグリーンコアのあり方は、きっと多くの読者に勇気を与えてくれるはずです。