外国人観光客増加にあたって問題になっているのが、宿泊施設不足です。2020年の東京オリンピック開催時には、さらなる客室不足が懸念されています。
その解決策として注目されている、ラブホテルと日本の成長戦略である民泊特区についてご紹介します。
ホテル不足の救世主?ラブホテルに高まる期待
2016年6月に、政府はラブホテルを観光客向けホテルに改装する後押しをするとの方針を、条件付きで固めたと公表しました。
比較的稼働率に余裕があるラブホテルを一般ホテル化することで、日本を訪れる外国人観光客の急増による宿泊施設不足を解消することを目的としています。
さらに、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催時にはホテルの客室数が大幅に不足することも予想されるため、ラブホテルの改装受け入れにくわえて民泊の規制緩和も実施し、早期に体制整備を進める方針です。
ビジネスホテルやシティホテルの平均稼働率が7、8割である一方、ラブホテルは全国に1万店以上もあり平均稼働率は平日で約4割しか無いという現状があります。ラブホテルを一般ホテルとして稼働することができれば、訪日客増加の受け皿として生かすことができるのです。
しかし、そこで問題になるのは、ラブホテルは風営法により18歳未満の利用が禁じられている点です。
また、一般のホテルとして運営するには客室内の改装や対面式のフロントなどを設置し、旅館業法による営業許可を取得する必要があり、中小事業者の多いラブホテル運営者にとって改装資金の調達が課題となっていました。
この課題を一般ホテルへの改装という条件付きで融資し、規制を緩和することにより解決しようというわけです。
一見すると突飛な策のようにも思えますが、リオ五輪ではラブホテルの料金を半額にして利用促進を図り、客室不足を代用した実例もあります。
なぜ外国人はラブホテルを選ぶのか
日本人は、ビジネスホテルの代わりにラブホテルを利用するというのには抵抗があります。
しかし意外なことに、訪日外国人観光客はラブホテルに対する偏見がなく、普通の宿泊施設として利用するケースも多いようです。その理由は、ラブホテルならではの設備やサービスにありました。
ラブホテルでは、その場で受付をする必要もなく、ルームパネルで好みの部屋を選ぶことができます。
さらに、広々とした客室にて、豪華なお風呂で疲れを癒したり、大画面でテレビを楽しむこともできます。現在ではラブホテル宿泊者の9割を外国人客が占めるほど、外国人観光客からの人気を得ています。
そこまで外国人観光客に人気があるのなら、このままでも宿泊施設が足りなくなることはないのではないかと思われるかもしれませんが、地域によってはラブホテル建築基準条例により、新規のラブホテルをオープンできないという実情もあります。
具体的な例を挙げると、2006年渋谷区では青少年を保護する目的で「ラブホテル建築基準条例」を制定しました。
その条例の中にダブルベッドの客室数を制限する項目があるため、新規に建設するのが難しくなってしまっています。
宿泊施設不足を補う秘策、民泊特区でどう変わる?
地域の条例によりホテルを新設できない場合、次に期待されているのは一般民家の一部を間貸しして客を泊める民宿です。
かつては旅館業法に則って営業することが難しく、無許可の違法民泊が増加し問題になっていましたが、地域振興と国際競争力の向上を目的とした経済特区では規制が緩和されて、営業がしやすくなりました。
現在東京圏や関西圏の一部、沖縄県や福岡県福岡市などが国家戦略特区に指定されており、そのエリア内に限り、従来の旅館業法の規制を大きく緩和することが認められています。
内閣総理大臣や都道府県知事から外国人の滞在施設経営事業についての認定を受けることで、旅館業法の規定が適用されないという仕組みです。民泊特区とも呼ばれ、実際に条例を成立させた東京都大田区をモデルケースとして、今後どこまで特区を全国に広げることができるかが課題となっています。
鉄道会社も民泊事業に参入、民泊新法にも期待
国が規制緩和によって宿泊施設不足問題の解決に乗り出す中、2015年から京王電鉄株式会社も民泊事業へ参入しています。
民泊特区である大田区蒲田に、鉄道会社として初めて、民泊マンション「KARIO KAMATA(カリオ カマタ)」をオープンしたのです。
京王電鉄は不動産やホテル運営事業のノウハウがあり、法律や民泊について精通している企業と連携することにより民泊事業への参入に成功しました。
また、民宿を規制する法案が見直され、2017年3月に住宅宿泊事業法案(民泊新法案)が閣議決定し、早ければ2018年1月にも施行されます。これにより住宅所有者、仲介業者、代行会社に明確なルールが設定され、違法な民泊営業を取り締まりつつ民宿を新たに始めやすくなります。
この民泊新法の新設によって宿泊施設不足が解消されるかどうか、今後注目を集めることになりそうです。