コラム

【ホテル今昔物語】2000年代以降の発展 その(1) 2007年問題

2016.04.25

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21世紀に突入してから、日本のホテル業界には外資系のラグジュアリーホテルと低価格・宿泊(B&B)特化型ホテルという2つの新しいカテゴリが登場しました。既存のカテゴリにとらわれない新たな市場が切り開かれている現代。最近のホテル発展の軌跡について学んでいきましょう。



ホテル業界が直面した「2007年問題」

2007年問題とはなにか、ご存じでしょうか。日本の高度経済成長を支え、今日の発展に尽力してきた団塊の世代の方々が定年を迎え、大量に退職してしまうことによって、日本社会の急激な労働力不足を招くという社会現象を指す言葉でした。一方、ホテル業界にとっての2007年問題は、2000年を過ぎてから東京を中心に始まった、外資系高級ホテルの進出ラッシュのことを指しました。これは2009年まで続き、既存ホテルチェーンとの競合が激化したのです。

開業ラッシュの裏で、労働力の確保と質の問題が

外資系ホテルの開業ラッシュに加えて、更にホテル業界に訪れたのが国内ホテルの増設やや宿泊特化型ホテルの開業といった新規事業の波。2004年時点での総客室数は約9万1000室。この開業ラッシュによって、増加した部屋数は1万2000室以上。かなりの数がこの時期に増えたのだということがわかっていただけるかと思います。

ホテル業界で働く人にとって、客室数の増加は業務量の増加も意味します。ホテル同士の競争は激化。働く人の業務効率は今までと同じですから、必然的に働く時間が長くなります。また、需要はそれほど変化していないにもかかわらず、供給数が急増したために、稼働率の低下も問題となりました。そのため、他ホテルへ宿泊客を取られないように客室単価を下げ、それでも利用者数が伸びず、ホテル自体の収益も下がってしまったというところも多くありました。さらに、従業員の労働力に見合う給与や福利厚生を整えられなかったことによって、退職する者が増えたと同時にホテル業界の仕事に対するモチベーションの低下もみられました。一番大事にしなければならない「質」そのものが低下してしまったというのが、ホテル業界にとっての2007年問題が現場にもたらした代償といえるでしょう。

競争激化の理由とは…

外資系ホテルとの競争が激化した理由には、いったい何があったのでしょうか。

日本のホテル市場にまだ伸び代があると世界の投資家たちに思われていること

ヨーロッパやアメリカといった国のホテル市場を見てみると、もうすでに人とお金の流れが成熟し確定してきているので、新規のホテルが厳しい状況にあります。今働いている人の福利厚生を保ちながら今稼働しているホテルの売り上げをどうするか…といった考えになっています。それに対して日本のホテル業界はまだまだ伸び代があると投資家達から考えられているのです。

観光大国日本という観点から、訪日外国人に人気のブランドホテル拡充の余白があること

縦に長い国土と、分散して観光地があるのを見てわかるように、日本は観光大国。国内外から観光に訪れる人が多いことに目を付けて、訪日外国人に対して人気が出そうなブランドホテルの拡充を図っているのです。

外資系ホテルとの共存と、働く人のケアが急務

日本に参入してくる外資系ホテルとの共存は、これからの課題でもあります。それと同時に、日本が現在抱えている社会問題「少子化」と「人口減少」が一因となって、ホテル業界で働く人にもケアが行き届かなくなってしまい、また質の悪化を招きかねない状況に今後なりつつあることも見逃せません。外資系ホテルとの共存と働く人へのケアは急務だということを、2007年問題を通じて気付くことが出来たのではないでしょうか。